RED LIGHT レッド・ライト 映画解説

ホームレスの意味

ホームレスらしき黒人女性と接触するシーンがあるが、ひどくミステリアスで、本筋との繋がりを見いだせない。誰かヒントでもいいから繋がりを教えてほしいものだ。ただ1つだけ彼女の行為から面白い引用を見つけることができた。彼女が唾をはきかけるところだ。聖書のヨハネ福音書第9章には、ナザレのイエスは自身の唾で盲人を治療して開眼させる節がある。これに重なる部分はないだろうか。つまり、黒人の女の姿でキリストの再来を描こうとしたのではないだろうか。でなければこのホームレスはなんなのだろうか。たしか映画『 ジーザス・クライスト=スーパースター』ではイスカリオテのユダを黒人が演じていた。その意味は深くは知らないが、聖書の要人を黒人に演じさせることは無くもないようだ。しかし答えにはならないだろう。
出来事を出来事として捉える…そう考えれば考えるほど、不可解なシーンである。

夢のなかのバックリー

バックリーが夢見をするシーンがある。
自分が自分に見つめられている。一人は横たわり喪服を着ている。まるで死んでしまったかのようにして胸で手を組んでいる。もう一人は天井からぶら下がっているような状態で浮遊している。
そしてサイモン・シルバーが横に現れる。驚いたバックリーは夢から覚めて、サイモン・シルバーがいたのかもしれないと、ロフトから降りていく。ドアに何かが当たる音がした。駆け寄るバックリーがドアを開けると、外には鳥の死骸が落ちているだけだ。オーエンはバックリーを止めようと必死に声をかける。バックリーは耳を貸そうともしない。通りに出たバックリーは足の裏にガラスが刺さっていることでやっと目を覚ましたかのようにして部屋へと戻る。結局サイモン・シルバーはいなかった。帰った部屋の中は荒れていた。瞬時にそれができるのは魔術やその類いでなければ不可能だ。一体なにが起こったのだろうか。
始めて観たときにはなにがなんだかよくわからないシーンだった。最後のオチを知っている人にとってはただの夢見だということがわかるが、それでも不可解なシーンだ。
喪服の自分に出くわすというのは、およそ近い将来の死を予感させるものだろうし、そこへシルバーが現れたのだから、シルバーの力によってバックリーの死がもたらされると読むのは順当だろう。しかしこれ全てはバックリーの恐れから発したものであり、シルバーにはそんな力は一切ない。いや、サイモン・シルバーは少しだけ力を持っている。マーガレットやバックリーを追い詰めている、その支配力だ。「王の統治する力」や「カリスマの力」だ。シルバーは超能力こそ持ち得なかったが、カリスマという力で人々に虚実を真実と思わせ、超能力(偽物ではあるが)を得た。バックリーとマーガレットはこの力に翻弄されて正しい視点を保つことができない。
シルバーの持つ力は強力だ。
これを超能力とは言わないのならばなんだろうか。シルバーの力と超能力との違い、それは
まやかしであること
だ。超能力が存在すればまやかしでなく、事実、力、ということになるだろう。だがカリスマや王のもつ力というのは、実際の力ではない。王や教祖は事実存在するが、オッカムの剃刀的に解釈すれば、王だのカリスマ教祖も、ただの人間なのだ。彼らの悦に入った声を聞いても、偉い人とは思わずに、人の声と捉えるべきなのだ。シルバーならば、もしかすると大統領や宗教の教祖等にもなれたかもしれない。シルバーはカリスマも手品も持っていた。だがその力の使い方を間違えてしまった哀れなジイサンだった。そしてシルバーは自分のメッキが剥がれつつあることに気づき始めている。同時に気づき始めたこともある。それは誰かが本当に力を持っているのだと。今度はその恐れがシルバーを追い込み始めた。ここでのシルバーにとって必要なものはなんだろう。人間世界から認められることだ。つまり評価が欲しいのだ。評価さえ得られてしまえば本物の超能力から遠くに逃げられるとでも考えたのだろう。だからシルバーは大学での厳重な検査に挑んだのである。

シルバーの部屋

全ての検査を終えたシルバー。小銭を稼ぐための占い部屋なのだろうか、彼はこじんまりとした部屋で盲人に対して治療紛いのことをしているようだ。
バックリーは前回中へ入ることができなかった。今回は待ち望んでいる人たちに割り込んで、中へと入る。うす暗い部屋で、古めかしい装飾がなされていて、いかにも魔術のひとつやふたつが飛び出してきそうな部屋である。塩で線が引かれ、魔除けでもしているかのようだ。シルバーが悪魔であるならばなぜ自分でそのような結界を張らなければならないのか。もしバックリーが悪魔ではないかとシルバーが疑っているならば、塩は意味をなすかもしれない。シルバーは、自分の支配が及ばない何かに怯えでもしているかのようだ。
バックリーはひたすら沈黙を続け、シルバーが話続けるシーンがしばらく続く。このときのシルバーは何を言おうとしているのだろう。長いが抜粋してみたい。

お気づきだろうが、私には容易に近づけない
近づけるのは心から望むものだけ
今日は会話を控える
明日か…別の町ではわからないが
ずっと控えるかも
毎日を、最期の日だと思い生きてきて、ひどく疲れた
常に礼金を求めるとは限らない
金以外の払い方もある
知っているね
そうだろう?
実像なのか、見せかけか
それが常に問題になる
我々は皆 装うからな
人は一晩に27回夢を見るが、神経の保護作用で忘れる
君を保護するのは?
塩で引いた線か?
古代ギリシャ時代から
哲学者と学士は人の理性について討論してきた
だが己もよく知らぬ者が他人を観察して
それが適切な研究だろうか
何を根拠に評価を下す?
真実を得る方法はただひとつ
期待しないことだ
不純な期待を持てば怪物を生む
遅いので終わろう。

ラストまで見てから、もう一度このシーンを見なおしてみても、セリフを抜粋していても、何を言いたいのかが見えてこない。ロバート・デ・ニーロに言わせるセリフとして、闇雲に意味不明な言葉を言わせているとすればロドリゴ・コルテスという監督は相当な力を持っているかただの頭のおかしいギャンブラーだと言ってもおかしくない。だからこそ意味のあるセリフなんだと思いたいのだが、私自身の矮小な知能では解析できない。セリフだけではない。シルバーが途中で開ける金庫は一体なんだろうか。シルバーは目が見えていた、だからバックリーが来てもわかったはず、それなのにわざわざ隠し金庫を開けるなんて、よくわからないことだらけだ。
しかしこのセリフを何度も何度も聞き返していると、浮き上がってくるものがある。『保護(protect)』という言葉だ。魔除けの塩の線、 神経の保護作用、怪物から身を守るには期待をしないことだ…。金庫も秘密を守る箱として、暗喩になっているのかもしれない。保護というより『守る』という方のが近いかもしれない。守るとは何から何を守るのか。悪魔からシルバー本人を守ろうとしているとも取れないだろうか。つまり、シルバーは何かに怯え始め、自分自身を守るのに必死になっているようにも見えてくるのだ。シルバーはあのステージで体験した得たいの知れない力から、何かが近づきつつあることを感じていて、それから逃げるために色々な手を尽くして逃げおおせるかどうかの局面にいると思い込んでいるのではないだろうか。

お気づきだろうが、私には容易に近づけない
近づけるのは心から望むものだけ
(塩の線で守られているから)

今日は会話を控える
明日か…別の町ではわからないが
ずっと控えるかも
毎日を、最期の日だと思い生きてきて、ひどく疲れた
(いつかバレてしまうのではないかと思って生きてきた、大学から評価を得たら隠居でもしようと思う。)

常に礼金を求めるとは限らない
金以外の払い方もある
知っているね
そうだろう?
(悪魔なら魂で支払いを求めるのだろう)

実像なのか、見せかけか
それが常に問題になる
我々は皆 装うからな
(本当は人間を装った悪魔かなんかなんだろうよ、いつか私のもとに悪魔かそれに代わるものが訪れてくるような気がしていた)

人は一晩に27回夢を見るが、神経の保護作用で忘れる
君を保護するのは?
塩で引いた線か?

古代ギリシャ時代から
哲学者と学士は人の理性について討論してきた
だが己もよく知らぬ者が他人を観察して
それが適切な研究だろうか
何を根拠に評価を下す?
(大学なんかは馬鹿げているよ、もうすぐ私を本物の超能力者だと認めようとしている。その評価さえあれば私は安泰だ、そしたら姿を消して永遠に私を否定することなどは出来なくなる、それが私の望みなのだ)

真実を得る方法はただひとつ
期待しないことだ
不純な期待を持てば怪物を生む
(つまり皆の期待が私のような怪物を生んだのだ、私のせいではない、期待さえしないで見てみれば、私などはただの人だとすぐにわかるはずなのに)

遅いので終わろう。

下手な解釈付きで再度セリフを挙げてみた。決して正解ではないと思う。私にはこれぐらいしか思い浮かばない。まったく反対のパターンも考えてみたが当てはまらなかった。本当に意味などあるのだろうか。いや、意味のないセリフをデ・ニーロなんかに言わせられるはずがない。デ・ニーロとて理解しないでセリフを言うのだろうか。そんなはずは、…ないだろう?期待しすぎか…そうだ、怪物を生まないためには期待をしすぎないこと、だったはずだ。期待してしまうことにより、事実とはまったく違うものを自分自身の中に作り出してしまうのだろうか。そうならば、それこそが一番厄介で恐ろしい魔物になるだろう。
シルバーはただのペテンではなく、ペテンだからこそ知れる哲学も持っているようだ。そんな哲学者のセリフだ、とてもじゃないが理解するのは難しい。

映画解説と題を打っているのに推測だらけになってしまった。それでもなんとかして最後までこの映画を分解してみなくては何もわからないままになってしまう。ラストまで追ってみよう。

3 Replies to “RED LIGHT レッド・ライト 映画解説”

  1. 初めまして。
    映画レッド・ライトの考察楽しく読ませていただきました。
    映画は全般的に好きなのですが、特に本作のような作品が大好きでDVDを探しては何度も見返しています。
    ですが、鈍感な為二度三度見てもなかなか理解できない事が多くもやもやする事ばかりでした、
    以前、大好きなD.リンチ監督のマルホランド・ドライブを見た後、どうしても理解に苦しんでいた時
    たまたま、こちらのような考察を読み、それから映画の楽しみが何倍も膨れ上がりました。
    それからはドニー・ダーコやメメント、オープン・ユア・アイズなど何度も見返しては自分なりに推理して楽しんでいます。
    まだ見ていない傑作がたくさんありますので、これからも色々と紹介していただけたらと思います。

    • コメントありがとうございます。
      映画って本当にいいですよね。
      この映画は表面的なトリックで観衆を翻弄しているんですが、多重レイヤーな伏線があるように見せていて、実は解説したようにシンプルな幹に枝葉がついたものだったりしますね。
      その罠にかかって推理していくのはとても楽しかったです。

      私も鈍感です。なので何度も見返します。この何度も見返したい、っていう映画に出会うと興奮しますね。そうするとわからなかったことが見えてくる。疑問が見えてきたらメモして、昔の映画に似たシーンがなかったかと思い巡らせてと、やっているととっぷりと日がくれていきます。
      マルホランド・ドライブではどこかの精神科医の人の解説が好きでしたね。あれには影響受けています。マルホランド・ドライブはあの解説で精神的な病み付きにさせられましたよ。
      あまり話題ではないですが、ロドリゴ・コルテス監督繋がりで「emergo apartment 143」の映画も傑作ですので、是非です。

  2. […] ※同ロドリゴ・コルテス監督作品「レッド・ライト」の考察もしてみました。 […]

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